OUR DX STORY

なぜ、金型メーカーがシステムを自分で作るのか ― 内製の15年

道具は、使う人が作るのがいちばん早い。

当社は、茨城県高萩市で精密金型とプレス加工をしている、従業員45名ほどの会社です。 その会社が、受注から請求までを扱う基幹システムも、社員が給与明細を見るポータルも、毎日の連絡に使う社内チャットも、すべて自分たちで作って動かしています。

そう言うと、たいてい「なぜ買わないのですか」と聞かれます。 このページは、その問いに対する私なりの答えです。 2011年に金型の受発注台帳を表計算ソフトからWebシステムに置き換えてから15年、何を考えて作り続けてきたのか、どこでつまずいたのか、できるだけ正直に書きます。

私がコードを書くようになったのは、経営者になるずっと前のことです。 1994年、税理士事務所に就職してパソコン会計の担当になりました。それまで Windows も Excel も触ったことがありませんでした。 担当になったからにはと自分でパソコンを買い、独学で覚えていくうちに興味がプログラミングに移り、当時の Delphi という言語で現金出納帳のアプリを作ったのが最初です。 事務所を辞めたあとは、個人事業主として Web デザインやシステム制作を2年ほど手がけ、2011年3月にエムディー精密に入りました。2017年、先代社長の急逝により会社を引き継ぎ、いまに至ります。

ですから私は、経営者であると同時に、当社のシステムのコードを書いている人間でもあります。 これは「DXを推進した社長の話」ではなく、「自分で作ってみた社長の話」として読んでいただければと思います。

代表取締役社長 立原賢治
立原 賢治
株式会社エムディー精密 代表取締役社長
1994年、税理士事務所でパソコン会計を担当したのをきっかけに独学でプログラミングを始める。個人事業主として Web・システム制作を手がけたのち、2011年3月にエムディー精密に入社。2017年10月、先代社長の急逝により代表取締役社長に就任。
01 / THE BEGINNING

きっかけは、先代社長のひと言でした。

2011年3月に入社した当時、日々の受注と売上は、担当者が Excel で集計し、印刷して先代社長に毎朝提出していました。 前日までの数字が、紙になって朝の机に届く。それが当たり前の光景でした。

あるとき先代が、「もっとリアルタイムに把握できるといいな」と漏らしました。 指示ではなく、ひと言です。それを聞いて、それなら作ってしまおうと立ち上がりました。入社した年のことです。 幸い私には、税理士事務所にいた頃から仕事の道具を自分で作ってきた癖がありました。

最初に作ったのは、金型の受注と外注先への発注を登録する Web の画面です。 担当者がその場で入力すれば、集計も印刷も要らず、社長はいつでも画面で今日の数字を見られる。 それが、いまの MD SYSTEM の原点です。 翌年には勤怠管理をタッチパネルにし、その後もプレスの生産計画、出荷検査、棚卸、経理と、現場から「これも欲しい」と言われるたびに画面を足していきました。

大きな計画があったわけではありません。先代のひと言に応える画面を一つ作る。それを15年続けたら、基幹システムになっていました。
02 / WHY WE BUILD

自分たちで作る理由は、4つあります。

2023年にプレスの生産管理を本格的に作り直すとき、日立地区産業支援センター(HITS)のDXハンズオン支援を受けました。 そのとき専門家の方に、ノーコード・ローコードのツールでサンプルを作っていただき、実際に触って比べています。 便利なツールでした。それでも最終的に自社開発を選んだ理由を、そのまま書きます。

REASON 01

現場の「こうしたい」を、翌日には画面に出せる

要望を聞いた人間が、そのまま設計して実装します。仕様書を書いて見積もりを取って、という往復がありません。小さな改善を速く何度も回せることが、小さな会社にはいちばんの武器です。

REASON 02

ライセンス費用がかからない

PHP と MySQL というオープンソースの技術で作り、会社のウェブサイトと同じレンタルサーバーで動かしています。利用者が増えても、人数分の月額が増えることはありません。

REASON 03

データは会社の財産。外に預けて抜けられなくなりたくない

15年分の受注、生産実績、検査記録は、当社の経営判断の土台です。外部サービスに蓄積して、やめたくてもやめられなくなる状態は避けたいと考えました。

REASON 04

業務をシステムに合わせない。使う機能だけを持つ

多機能なパッケージは、使わない機能の分だけ画面が複雑になります。当社の使い方に必要なものだけを作り、不要になったら消す。道具は業務と人の成長に合わせて変わるべきだと思っています。

03 / MAKE OR BUY

何でも作るわけではありません。

「全部内製」と思われがちですが、線引きはあります。 法律や制度の改正に追従し続けなければならないもの、専門の会社が何百社の知見を入れて磨いているものは、買ったほうが確実です。 当社が作るのは、「当社の業務の流れそのもの」と「当社の人が毎日触る画面」です。

自分たちで作るもの

  • 受注・発注・生産・検査・出荷・請求の流れをつなぐ業務システム
  • 社員が毎日使う画面(ポータル、チャット、現場のタブレット)
  • 当社の設備・工程に固有の仕組み(プレス機別の生産計画、ワイヤ放電加工機の加工カルテ)
  • 既製品では当社の使い方に対して機能が多すぎる、または足りないもの

買うもの・借りるもの

  • 会計ソフト(制度改正への追従が必要。MD SYSTEM からはデータを渡すだけ)
  • 金型設計の CAD/CAM(専門メーカーの蓄積に勝てない)
  • サーバーそのもの(レンタルサーバーを借り、自前のサーバーは持たない)
  • 基盤となるオープンソース(PHP、MySQL、Bootstrap など。作らずに使う)

社内チャットも、長い間オープンソースの Mattermost を借りて使っていました。自分たちで作ったのは2026年、サーバーの保守負担と社内システムとの分断が、使い続けるコストを上回ったと判断してからです。

04 / TIMELINE

15年の年表。経営の出来事と並べると、作った理由が見えてきます。

システムは、会社が順調なときに余裕で作ったものではありません。 プレス事業が急に大きくなって管理が追いつかなくなったとき、コロナ禍で赤字を出して数字をもっと早く見たくなったとき、米沢工場を手放して高萩に集中すると決めたとき。 節目のたびに「見えないものを見えるようにする」必要が生まれ、そのたびに画面を作ってきました。

システム開発 経営の出来事
  • 2009.09
    経営プレス加工品の生産開始
    金型だけだった会社に、量産というもう一つの事業が加わる。
  • 2011.03
    経営立原賢治 入社
  • 2011
    DX受発注管理システムを内製化
    先代社長の「もっとリアルタイムに把握できるといいな」のひと言から、入社した年に受注・発注の画面を自作。MD SYSTEM の原点。同じ年に会社ホームページも自社で制作。詳しく
  • 2012
    DX勤怠打刻をタッチパネル化、管理システム MD ADMIN を開発
    タイムカードをシステムに置き換え、勤怠の集計から給与・総務の業務までを管理者用の画面にまとめる。
  • 2013.10
    経営ISO 9001・ISO 14001 取得
  • 2014.11
    経営プレス工場を新築
    翌々年には売上高が10億円を超える。
  • 2017.10
    経営先代社長の急逝により、立原賢治が代表取締役社長に就任
  • 2011〜
    DXMD SYSTEM をプレス事業部・管理部門へ拡張
    生産計画・実績・出荷検査・梱包出荷、営業・経理・棚卸へ。現場の要望に応えながら対象業務を広げる。詳しく
  • 2019.03
    経営第三者割当増資(資本金2,700万円)
  • 2020
    経営新型コロナウイルス感染症の影響
    売上が落ち込み、大きな営業赤字を出した年。
  • 2021.06
    経営隣接の土地・工場を取得
  • 2023
    DX入社手続きサイトと MD DRINKBAR
    入社前の登録を本人のスマートフォンで。ドリンクコーナーの購入登録も端末に。
  • 2023.05
    経営米沢工場を事業譲渡
    高萩の本社工場に経営資源を集中。
  • 2023.07
    DXHITS の DX ハンズオン支援がスタート
    プレス事業部の課題と目指す姿を整理。ノーコードツールも検討したうえで、MD SYSTEM への実装を選ぶ。詳しく
  • 2024.03
    DXMD SYSTEM for PD の開発を開始
    生産計画 → 実績収集 → 出荷検査 → 梱包出荷 → 見える化の順に、現場でトライアルしながら作る。詳しく
  • 2024.06
    DXMD MyPage 運用開始
    給与明細・源泉徴収票・各種届出を社員ポータルへ。紙の配布と手渡しをなくす。詳しく
  • 2025.01
    DXWorkTimer 設置
    終業までの残り時間を工場の壁面モニターに映す。追加ハードウェア費用ゼロ。詳しく
  • 2025.02
    DXハンズオン支援を完了、全14台のプレス機にタブレット
    生産実績がリアルタイムに事務所のモニターへ。続けてロットトレースと在庫管理を実装。詳しく
  • 2025
    DXMDi 温湿度モニタリング、安否確認
    MDi は社員有志の社内プロジェクト。温湿度・水温センサーを社員が製作・設置し、データをグラフとサイネージに。災害時の安否確認の仕組みも MD ADMIN に。
  • 2025.06
    経営リスキリング宣言
    いばらきリスキリングプロジェクトのもと、学び直しを会社の制度に。詳しく
  • 2026
    DXMD SYSTEM 3 へ全面刷新
    画面を一新しスマートフォン・タブレットに対応。経営ダッシュボード、工程スケジューラ、AI名刺スキャンを追加。朝カフェのメニュー表示も。詳しく
  • 2026.10
    DX社内チャット Meshup 正式運用
    長年使ってきた Mattermost を、自社開発のチャットに置き換える。詳しく

経営の出来事は 会社沿革 と 業績推移 から。業績推移のページでは、これらの出来事と売上高・営業利益を重ねて見ることができます。

05 / WHAT WENT WRONG

うまくいかなかったことも、書いておきます。

いちばん大きな反省は、作り足し続けたシステムが、自分でも手を入れにくいものになっていたことです。 プレスの生産管理はずっと作りたいと思っていましたが、長年の機能追加で複雑になった MD SYSTEM に新しい塊を入れるのが怖くて、何年も手が出ませんでした。 結局、HITS のハンズオン支援で期限を切ってもらい、専門家に相談できる状態を作って、ようやく2024年3月に着手できました。 一人で作っていると、締め切りを作ってくれる人がいない。これは内製の弱点だと思います。

稼働中のシステムに手を入れる難しさも痛感しました。 新しい機能のために表の設計を変えると、古いデータとの整合性が崩れる。 このときも外部の助言に助けられました。内製だからこそ、外の目を定期的に入れる仕組みが要ると学びました。

そして2026年、15年分の継ぎ足しに区切りをつけて、MD SYSTEM を全面的に作り直しました。 画面を一新し、スマートフォンでも使えるようにし、セキュリティも作り直しています。 「作れる」ことと「育て続けられる」ことは別だと、身をもって知った15年でした。

作れることと、育て続けられることは別物です。内製を選ぶなら、外の目と締め切りを自分で用意しなければなりません。
06 / PEOPLE

システムは現場と一緒に作ります。コードを書くのは最後の工程です。

MD SYSTEM for PD を作ったとき、中心にいたのはプログラマーではなく、プレス事業部の部課長と、品質管理課・生産管理課のメンバーでした。 いまの仕事の流れを紙に書き出し、どこで情報が止まっているかを見つけ、目指す姿を言葉にする。 そこまでできれば、コードを書く工程は全体の一部にすぎません。

タブレットの画面も、机の上で考えたものをプレス機の横に置いて、作業者に押してもらって直す、を繰り返しました。 「ボタンが小さい」「この順番だと押し間違える」。そういう声がそのまま次の版になります。 作った人間が同じ建物にいるから、できることです。

2025年の MDi 温湿度モニタリングは、社員有志が手を挙げた社内プロジェクトでした。 工場内に置く温湿度センサーと水温センサーは、社員が自分たちで製作して設置しています。 私が画面を作り、現場がセンサーを作る。金型メーカーの社員は、もともと手を動かして物を作る人たちです。 その力がソフトウェアの側にも向き始めたのが、この数年のいちばんの変化だと感じています。

2025年6月には、茨城県のプロジェクトのもとでリスキリング宣言をしました。 資格や講座の費用を会社が持ち、学び直した力を評価する。 システムを作る側の人間を社内に増やしたいという思いも、この宣言には入っています。

07 / INVENTORY

15年で作った道具。事例として公開しているのは、その一部です。

基幹システムのような大きなものから、ドリンクコーナーの端末のような小さなものまで、いま社内で動いている自作の道具を分野ごとに並べます。 矢印の付いたものは個別の事例ページがあります。

生産・販売(金型・プレス)

名称 稼働 何をするもの
MD SYSTEM 2011年〜 見積・受注・発注・生産計画・実績・出荷検査・梱包出荷・請求・会計連携まで、70を超える業務画面を一つのデータベースで。2026年に「MD SYSTEM 3」へ全面刷新
MD SYSTEM for PD 2024年〜 全14台のプレス機に置いたタブレットで生産実績と停止理由を収集し、事務所のモニターにリアルタイム表示
工程スケジューラ S-PAS 2026年〜 金型プレート加工の工程を号機ごとにガントチャートで計画。残業・休日出勤・夜間の自動運転も考慮(MD SYSTEM 3 の機能)
MDi 温湿度モニタリング 2025年〜 工場内の温湿度と水温のセンサーのデータを集め、一覧・グラフ・サイネージで表示。気象庁の観測値と並べて空調の効きを確かめる。社員有志が参加した社内プロジェクトで、センサーの製作と設置は社員が行った

人事・勤怠・総務

名称 稼働 何をするもの
勤怠打刻端末 2012年〜 工場に置いたタッチパネルで出退勤を打刻。部門別の一覧から自分の名前をタップするだけ。タイムカードの集計をなくした
MD ADMIN 2012年〜 管理者と総務のための管理システム。勤怠の集計、給与の集計と明細の取り込み、年末調整、通勤費、作業服の貸与、面談記録、目標管理、採用面接の記録、物品購入・交際費の申請まで
MD MyPage 2024年6月〜 社員一人ひとりのポータル。給与明細・源泉徴収票・有給残・各種届出・年末調整の申告をスマートフォンから
入社手続きサイト 2023年〜 入社する人が出社前に、基本情報・誓約・通勤・振込口座・マイナンバーを自分のスマートフォンから登録。初日の書類仕事をなくした
WorkTimer 2025年1月〜 終業までの残り時間を工場の壁面モニターに色と数字で表示。音声で節目を知らせる

社内の暮らし

名称 稼働 何をするもの
MD DRINKBAR 2023年〜 セルフサービスのドリンク・カップ麺コーナーの端末。自分の名前をタップして購入を登録し、給与から天引きで精算。ときどき当たりが出る
朝カフェ メニュー表示 2026年〜 社内カフェの本日のメニューをタブレットに常時表示。売り切れは総務の管理画面から即反映

コミュニケーション・情報発信

名称 稼働 何をするもの
Meshup 2026年10月〜 自社開発の社内チャット。チャンネル・スレッド・全社連絡の確認状況・おやすみモード。社員名簿や MD SYSTEM と連携
安否確認 2025年〜 地震などの災害の際に全社員へ一斉に連絡し、回答を集計(MD ADMIN の機能)
会社ホームページ 2011年〜 いまご覧いただいているこのサイトと、お知らせを投稿する管理画面も自社で制作・運用

このほか、社有車の予約カレンダー、AI による名刺の読み取り、月次棚卸の催促メールなど、MD SYSTEM や MD ADMIN の中にある小さな道具は数え切れません。 いずれも PHP と MySQL で開発し、会社のウェブサイトと同じレンタルサーバー上で動いています。ソフトウェアのライセンス費用は 0円です。

08 / CLOSING

ものづくりの会社だから、道具も自分で作る。

金型メーカーは、お客様の製品を作るための道具を作る会社です。 自分たちの仕事の道具を自分たちで作るのは、その延長にあることだと思っています。 特別なことをしているつもりはなく、目の前の不便を一つずつ消してきただけです。

同じような規模で、同じような悩みを抱えている会社は多いはずです。 見学や、取り組みについてのお話はいつでもお受けしています。 うまくいったことも、いかなかったことも、そのままお話しします。

株式会社エムディー精密
代表取締役社長 立原 賢治

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